ケイカ -桂花-

「宗教は捨てられたとしても、親は捨てられない」

体の奥から絞り出した様な声だった。

苦しくて、苦しくて、切ない声。

「ウチの家族、すっごい仲良いんだ。家族以上に宗教っていう絆があるから。俺が生まれたのだって宗教があったからだし。それがインチキでも、事実だ、変えられない。

宗教を捨てるって事は、家族を捨てる事。それだけはどうしても出来ない。生まれた事を否定する事は出来ないんだ」

宮崎は正面をじっと見ていた。

暗闇の中に見えない何かを必死に探すみたいに。

「・・・分かったよ」

そんな言葉が出ていた。

本当は分かってない、全然納得してない。

だけど宮崎を見ていていたら、そう言うしかなかった。

奥歯をぐっとかみ締め、ギリギリのところで踏ん張ってやっと立っている、そんな風に見えた。

多分、この本当の気持ちを誰にも言った事がないんだと思う。

初めて言葉にして口に出し、改めて覚悟を決めた、強い決意。


「・・・でも、宗教を捨てろなんて言われたの初めてだよ。そんな選択肢があるなんて考えた事もなかった」

宮崎は見た目に似合った爽やかな笑顔を見せた。

だけど、捨てる選択肢を選ばなかった。

結局、私の言葉なんて伝わらないんだ。

何一つ私の思い通りにはなってくれない。