ケイカ -桂花-

「はぁっ、おいしかった」

最後の一滴まで飲み干したケイが勢いよく丼を置いた。

おいしいって・・、いつもどんな物食べてんだよ?

「食べないの?」

「だって、おいしくないし・・」

食欲も無い。

「確かに。1年前と同じ、全然おいしくなってない」

ケイが頷きながら笑った。

「今、おいしい、って」

言ってる事がめちゃくちゃだ。

私の怪訝な顔にもケイは微笑んでいる。

そして少し間を置いて、微笑んだまま静かに話し始めた。

「1年前にさ、今のとこに引っ越して来たんだ。この辺の土地勘全然無くて、引越しの日にこの店に入ってラーメン食べた。
あの頃私、仕事も無くて知り合いもいなくて、本当に何にも持ってなくてね、その上ラーメンまずいし。
食べながらボロボロ泣いちゃった」

照れ隠しに笑った顔には、寂しさの影がくっきりと浮かんでいた。

ケイはいつも自由で、自分の気持ちに正直で、思ったとおりに生きてきた、そんな風に見える。

だから、そんなものとは無縁だと思っていた。

想像すら出来なかった。