ケイカ -桂花-

帰りに教室を出る間際、ちらっと宮崎を見る。

朝と同じ、無言の、だけど優しい2人だけのアイコンタクト。

本当はこれからどこかで会いたいのだけど、昨日の今日でそれはウザイと思われそうで、誘えなかった。

がまんしよ。

もし宮崎が誘ってくれたらすぐ飛んでいくんだけどさ。


私がケイの店に出入りするようになって、来なかったのは昨日が初めてだ。

ここに来る事だけが私のすべてだったのに、昨日は一瞬たりとも思い出さなかった。

その事に多少の後ろめたさを感じていたが、ケイはいつも通りでホッとした。

「今日って忙しいのかな?」

「まあ、そこそこね」

そっか。

ゆっくりお茶なんてしてられないな。

「あ、今日新しいの買ったんだった、飲んでみよ」

思い出したように言って、小さなコンロで準備を始めた。