定時になったのも気づかず、私は電気もつけないで所長室にいた。
パソコンのディスプレイの光だけが眩しいこの部屋に、桂木所長が戻ってきたとき、時計の針は20時を回っていた。
「早百合ちゃん!どうしたの!?」
すぐに私の異常に気づき駆け寄る桂木所長に、私は視線を合わせるのが精一杯だった。
―――なんだろう。
この人の顔を見たら、すごく安心する。
鼻の奥がツンとしてくる。
「…長澤、か?」
桂木所長からその名前が出てくるのは予想外だった。
私のちょっとした変化も見抜かれてしまいそうで、無理矢理笑顔を作った。
「誰ですか、それ?」
見抜かれただろうか。
「いや、…なんでもないよ。それより、送っていくから、帰ろ?」
ごまかしきれたようだった。
安心したような、打ち明けてしまいたかったような。
でも、巻き込んではいけないんだ。
私の上司でしかない人なんだから。

