お昼ご飯の後、私は一人「人魚の洞窟」と呼ばれる場所を目指していた。
「一人でお祈りしないと願いは叶わない」という伝説があるそうだから、皆に内緒で来たのだ。
誰にも譲りたくない願いがある。
誰かのために、って言える程良い人間でも強い人間でもないから、私は私のために祈りたかったの。
なのに……。
「おま、ここ、危険だって言われただろ」
「百地さん戻ろう」
息を切らした二人が洞窟に入る前に止めるから、早くも断念しそうになる。
絶対お願いするために中に入るけどね。
「戻らない。ここ、願いが叶う洞窟だから!」
「だからの意味がわからねぇ。危ないから戻るぞ」
「……わかった。僕が守るから行こう」
「ほら、王子も反対して……は?」
「わーい、王子ありがとう!」
さっすが王子! 最近、王子の歯の浮くような台詞に抗体ついてきたぞ!
一人じゃなくなっちゃったけど、まあいっか。
伝説なんてくそ喰らえっ、だ。
石頭の至は放って、王子と洞窟に入る。
「ちっ、しかたねーな。俺も行く」
「結局はそうなるんだなぁ」
「うっさい」
至は私の右手を掴んでさも俺が先頭切って歩いてんだ、って顔しながら歩き出した。
一瞬王子の手を掴もうかと思ったけど、その考えは押さえ込む。
「手繋がなくても平気だから、変態」
「付き合ってんだから普通だろ」
「あ、それ、王子にバレた。文紀がバラした」
「はあ!?」
洞窟に至の驚嘆の声が響く。うるさいよー…。
「まあいいじゃん。さあ、人魚いるのかなぁ…」
手を振り払って先頭に躍り出ると、急に洞窟内が明るくなった。
岩の壁がキラキラとしている。
「うわぁ…なにこ……え、うわあああああ!」
ガクンと足場がなくなって、落ちている。って、冷静に解説している場合じゃなくて、
「沙久!」
「百地さん!」
ああ、死ぬのかと思って目を瞑ったら、両腕が強い力で引っ張られた。
上を見上げると至と王子が私の片腕を両手で支えてくれている。
それに縋るように崖を登った。
「馬鹿か!」
「ごめん…」
「でも無事でよかった」
「王子…ありがとう。至もありがとう」
本当に馬鹿だ。馬鹿すぎる。自分のことながら弁解の余地もない。
「ん、あれ? 王子、毛出てこなかった…?」
そういえば、と王子の手のひらを見てみたが何の変化もない。
あれ?
「治った…?」
「ど、どうなんだろう…」
「よし、試そう! 抱きついて「やめろ」…はい」
至に頭を叩かれて、仕方なく握手だけに済ませた。
5秒後、残念なことに毛はむくむくと生えてきた。
「たまたま、だったのかな」
王子が悲しそうに瞳を伏せるから、私はすくっと立ち上がった。
周りを見渡して確認する。
天井に開いた穴から光が差し込んできて、私が落ちそうになった崖の下にある池に反射して壁に水のイルミネーションを作っていた。
ここが、人魚が住むと言われている池なのだろう。
「私願うよ。王子の体質が治りますように、って」
「……俺も」
手を合わせた私の隣に至がやってきて同じく合掌した。
至に笑ってみせると笑顔を返してくれた。
王子にも笑ってみる。
落ち込んでいた顔に光が戻っていく。
「ありがとう」
私達三人は並んで、もう一度その願いを口にした。
一人より、三人の方がやっぱり願いも叶うんじゃないかなぁ、って今は思うんだ。
私の願いは自分の力でどうにかしなきゃね。

