「施錠をし忘れたのか!?」
「いえ、鍵はかかっていました。昼食時までは確実に患者はいたのですが、最後に確認してから見回りまでの1時間の間に、忽然と消えてしまったのです」この場でただ一人の女性、成田があわてて病棟の管理責任をまかされている自分たち看護士に落ち度が無いことを説明した。
「本当に昼食のときは病室にいましたし、下膳もして食事を食べていることも、服薬も確認しています。食事から見回りまでの間も病棟から出て行った患者など、一人もいません。監視カメラで確認済みです」
「すぐに手のあいているスタッフで病室を確認しました。もちろん、布団とトイレ以外は何もない部屋ですから隠れる場所などありませんし、窓や天井が破られたりした跡もなかったのです。ただ、患者だけが、煙のように消えていなくなってしまったのです!」
この数年、患者の病状の問題は常日頃からあるにせよ、それ以外の問題らしい問題を起こすことなく現場を取り仕切ってきた成田は半ば悲鳴のように釈明をした。
「院長、成田看護婦長の説明に間違いはありません」若い精神科医の松本が、ベテラン看護婦を援護する。デビル病院は医師から看護士まである程度他で経験をつんだスタッフで構成されている。彼のような若い医師は、ここではめずらしい存在だった。
「いなくなった患者は僕の受け持ちで、毛利かずおという20代の男性患者です」