「あのとき……私が採った選択は、おそらくは“最善の選択”だったと思います。彼女の心を呼び戻すためには、ふたりの気持ちを良く知る私にしか出来なかったと」
スッ、と。
わたしの手をあたたかくて大きい先生の手が包み込む。
「けれど、ね。それが“最良の選択”だったかどうかは、今でも、どうしても……わからないんです。なぜならそれは、私が決めるものではないから」
誰かを好きになるという気持ちは誰にも止めることは出来ないし、誰に咎められるものでもない。
けれど、大切な人を助けるためだったとはいえ、大切な人を傷付けてしまった罪の意識はどれだけそれが正当なことだったとしても消えることは、ない。
それは、一生背負わなければならないことだと、先生はうめくようにしていった。
「友の愛する人を愛するというのは、そういうことです」
それは、その言葉は、鉛の枷(かせ)のように、わたしの首に、腕に、足に、絡みつく。
重い。
「すみません。何だか重苦しい話になってしまいましたね。ただまぁ、私が妻を愛しているという事実は、胸を張っていえます」
わたしの頭を撫でながら、その場の空気を切り換えるように努めて明るい声を出す先生。
「これでもね。ウチの夫婦仲は自慢なんですよ?」
けれど、そんな気遣いにもわたしの心が晴れることはなかった。
わたしの意識に、はっきりと刻み込まれてしまったから。
友の愛する人を愛するということは──『罪である』と。


