「私の妻は、ね──親友の彼女だったんですよ」
先生は何か苦いモノを噛みしめるような表情をしながら、話し始めた。
「日下くんたちは男の子がひとりの女の子がふたりでしょう? 私たちはその逆。幼馴染というわけではありませんでしたが、ふたりとも昔馴染みの旧友でした」
先生が高校生の頃。
「親友ふたりは中学生のときに付き合い始めたのですが、ちょうど高校卒業後の進路について真剣に考え始めた頃のことです」
先生は地元から通える美大に以前から進学することを決めてたらしくて。
女の子は母子家庭だったものだから親元を離れづらい、と地元の大学に進学を希望。
問題は男の親友の進路だった。
「とても、仲が良かったふたりだから、てっきり私は彼も同じ大学に進むものだと思っていたんですよ。それまで特にはっきりとした夢や進路を口にするようなことがありませんでしたからね」
ところが。
親友は地元を遠く離れた大学を目指してるといったのだ。
「私は、ね。彼がはっきりとした夢を持っていることがわかって実はとてもうれしかった。素直にそれを応援したと思った。しかし──」
彼女は違った。
猛烈に、反対したのだ。
“遠距離恋愛”に耐えられる自信がない、と。
彼は動揺した。
「彼自身は遠距離だろうとなんだろうと、気持ちが変わることはない、そう信じていました。それは私も、信じて疑いなどしませんでした。それだけ、私たちは長く一緒にいましたから」
それでも、彼女は彼の説得も、先生の説得にも耳を貸すことはなかった。
3人の関係は、そこから少しずつ崩れ始める。
「親友は理解してくれない、しようとしない彼女に苛立たしさを募らせ。彼女は彼女で自分の不安を理解しようとしてくれない彼に対して次第に心を閉ざしていきました」
やがて、受験シーズンが間近に迫り、
「その日はやってきました」
彼女が、手首を切ったのだ──


