相談をしてみようか?
いや。
先生が八重ちゃんたちに話してしまうようなことはないとは思うけれど、何となく“たが”が外れてしまいそうで、怖い。
だからわたしは別のことを聞いてみることにした。
「先生は、奥さんとどうやって知り合ったんですか?」
ほんの軽い気持ち。
ただ何かこの悩みを解消させるヒントでもみつかればと思っただけ。
けれど、意外な話を先生は口にした。
「実はですね。略奪愛なんですよ」
「りゃ、略奪愛!?」
思ってもみなかった言葉にわたしはつい持っていた筆を落とす。
じょ、冗談でしょう?
けれど先生はいつも通りのやさしげな微笑みを浮かべたまま。
ごくり、と唾を飲み込んでみても一向に発言を撤回する様子はない。
「あ、あの……」
ね、念のためにもう一度確認してみようかしら。
「はい?」
にこにこ。
「リャクダツアイ、ってあのリャクダツアイですか?」
他に何があるのか自分でも知りたいけれど。
「そうです。略奪した愛の略奪愛です」
先生、もしかして紳士どころかけっこう腹黒い系ですか?
「まぁ、略奪というと、ちょっとオーバーかもしれませんけどね」
空いた椅子を引き寄せた先生は視線を少し床に向け、どこか自嘲気味に口の端を上げつつ、ゆっくりとした動作で座った。
草にぃより少し上くらいの年齢だったはずだけれど、レースのカーテンを通り過ぎて射し込む西陽がその顔をいやに老けさせる。
それは“告白”というよりも、どちらかといえば──
──“告解”と呼ぶほうがしっくりときた。


