「これが最後のチャンスと思ったら、もしかして何もいわない方がいいんじゃないか、って。もし亮平くんが困ったような態度を見せて、気まずくなったらどうしよう、って……」
それは今まで積極的にアプローチをかけていた彼女からは考えられない、弱気な言葉。
「あの日、キスしたこととか、本当はすごい迷惑に思ってるんじゃないかとか……」
「八重ちゃん……」
「ふられるくらいなら、ふらせるくらいなら、とか……」
「八重ちゃん……」
「そういうことがどんどん頭に浮かんできちゃ──」
「八重ちゃんっ!!」
「──っ!?」
乾いた音が辺りに響く。
右手が、熱い。
「さ、ち……ちゃん?」
気付くと、わたしは八重ちゃんの頬を思いっきり叩いてしまっていた。
けれど、悪いだなんて思わない。
思ってなんて、あげない。
だって、だって……
「前にこの気持ちは譲れない、っていったのは嘘だったの?」
「嘘なんかじゃない! そうじゃない、けど!!」
「わたしの背中を押してくれたのは他でもない。八重ちゃんなんだよ? その本人が今さら逃げ出すなんて、ゆるさない」
そうだ。
他人の背中を押すということは、1歩を踏み出させる責任があるはずだ。
それなのに、
「ライバルだ、っていったじゃない。それなのに自分だけかっこつけて、自分を守って……そんなの、そんなの……」
わたしが馬鹿みたいじゃない。
だめだよ。
こんなの、絶対に、だめ。


