「気持ちの、余裕?」
「そ。仕事を始める前とか、朝起きたときとかな。そういうときにこれをすると、自分に今どれだけ余裕があるかどうかを知ることが出来る」
3人分のカップをテーブルに置いた草にぃは椅子に腰かけるとひとくちほど珈琲を口にし、続けた。
「つまり、な。“時間に追われる”んじゃなくて、こいつは“時間を楽しむ”ことを忘れないようにするために唱える魔法なのさ」
その言葉で、どうして草にぃがこれをわたしに教えようとしたのか、気付く。
気が焦っているときは、いろんなことを見落としがちになる。
目の前にある大事なことにばかり気を取られて、足元の段差や穴に気付かなくなるように。
今のわたしのように。
「初めて料理を作ったときのこと、覚えてるか?」
不意に質問される。
ぱっ、と思い出せたのは、
「確か……小学校の頃作ったカレー、だったかな?」
学校の行事で山にキャンプをしにいって、そのときに皆でわいわいしながら作ったのを覚えてる。
ジャガイモやニンジンは不恰好にごろごろしていて、ルーは水が少なかったのかやけにもったりしていて。
お米は逆にちょっぴり水っぽかったっけ。
でも、
「美味かったか?」
「うん。不思議と美味しかった」
「それまで食べたどんなカレーよりも美味かったんじゃないか?」
「そういえば、そうかも……」
きっとそれは大した味じゃなくって、どちらかといえば不味い寄りだったに違いないけれど。
けれど確かに、とても美味しかったと感じていた。
どうしてだろう。


