この時季独特のじっとりとした蒸し暑さに肌を汗ばませながら歩くわたしたち。
もう少しすればピアニッシモだ。
「そういえばさ。あれから亮平とゆっくり話とかした?」
ふとたずねる。
実のところわたし自身はあれから学校でちらりと目にするくらいでまともに話をしてない。
「ううん。なんというか、こっちの“準備”が出来てないからまだ、ね」
なんだ。
八重ちゃんも一緒か。
要するにわたしは“絵”、八重ちゃんは“手料理”。
告白に添える“傑作品”が出来上がるまではなんとなく話しかけづらいのだ。
暗黙の了解。
“その時”まではお互いのしなければいけないことに集中しようと。
そういうこと。
とはいえ。
想い人の動向が気になるのは恋する乙女の常なわけで。
「あれ? そういえば何か忘れてるような……」
ふと。
何かが頭をよぎる。
おや?
なんだろう?
すごく大事なことを忘れてる気がする。
なんだっけ?
ん~。
妙に“不快”な感じというか“焦り”を感じるというか。
こめかみ辺りがちりちりする感じ。
「なんだっけ……」
「紗智ちゃん?」
買い物袋を持ったまま腕組みをするわたしを怪訝そうに見つめる八重ちゃん。
まぁ、思い出せないのなら大したことじゃないのかなぁ。
そう思いつつも、本能が「思い出さなきゃ大変なことになるよ!」と信号を発する。
いや、そういわれてもなぁ。
そうこうする内にピアニッシモに到着。
ん。
とりあえず後にしよう。


