「怒ってたわけじゃ、ないの……」
「?」
「確かに、ね。最初は紗智ちゃんの態度にイライラしちゃったけど。でも、その後すぐに“絵”を書き始めたこと、宮脇先生に聞いたから」
そう、なんだ。
「だから、それはもう、いいの」
でもそれじゃ何に対して機嫌が悪くなってたのだろう?
だって、明らかにわたしのこと避けてるような様子だったし……。
「ほんというと、ね」
カゴの中のグレープフルーツをつつきながら、下唇をキュッ、とかむ八重ちゃん。
その先が、続かない。
何度か口を開こうとして、また閉じる繰り返し。
店内を流れる流行のポップス。
それがわたしたちの間に流れる空気とはあまりにもかけ離れていて。
どのくらいそうしていただろうか。
ふっ、とため息をついた彼女は、どこかあきらめたような表情をして、
「亮平くんが留学のこと告白してくれたときから、ね」
顔を上げる。
「え……?」
店内の曲が次に切り替わる一瞬の間。
ひとつひとつの言葉が否応なしにスッ、とわたしの耳に滑り込む。
「私、こころのどこかで……」
苦笑いを浮かべる彼女の瞳の端には、ふたりで想いを告げあったあの日とは違う、
「紗智ちゃんに嫉妬しちゃってることに気付いちゃったの」
涙が浮かんでいた。
「や、八重ちゃん!?」
グレープフルーツを胸に抱えてぽろぽろ、と涙をこぼす八重ちゃんに当然のことながら困惑するわたし。
え?
え?
八重ちゃんが“嫉妬”?
わたしに?


