不意にグラスの中の氷が音を立てた。
すると、それまで黙っていた亮平が、
「別に、隠すつもりはなかったんだよ」
それを合図に話し始めた。
「ホントはな。紗智にはほら、家の前で会ったとき。やえっちにはお菓子もらったときに話そうと思ってたのよ」
あ……。
あのとき?
わたしが、亮平のことを“異性”として意識したときと、八重ちゃんがキスをしたとき。
「でもなぁ。なんかうまくいえなくってさぁ。紗智のときはすっげ緊張するし、やえっちのときは……ねぇ?」
鼻の頭をかく亮平。
でもわたしたちが聞きたいのはそんなことじゃない。
どうして急に留学なんてする気になったのか、だ。
そう目で訴えかける。
「…………」
一瞬の沈黙の後、
「ん~。チョイペペマン、覚えてっかなぁ?」
「は?」
「ほら、俺らがちっこい頃テレビでやってた……」
「道草戦隊チョイペペマンのこと?」
「そうそう。さすがやえっち」
いや、まぁ、わたしも覚えてはいるけれど。
「敵の所に向かう途中にいっつも道草してさ。空き地で鬼ごっこ始めたりオープンしたてのケーキ屋でお茶したりで、本編よりそこメインだったあの特撮番組」
最終的にうやむやの内に敵と意気投合して改心させるという不思議かつ伝説的な番組、だったらしい(いつか亮平が熱弁してた)けれど。
「だから、それが、何?」
あまりに回りくどい言い方に苛立つわたし。
けれどそれを気にする風もなく、おもむろにヘンテコなポーズをとる亮平。
確か、それってチョイペペマンの決めポーズだっけ?
「俺さ……」
そのヘンテコなポーズのまま、やけに真剣な表情になる。
「今思えば、ずっと誰かのヒーローでいたかったんだと思うんだよね」


