それは、塾の春期講習を受けた帰り道。

カヨと別れ、塾の近くの本屋で参考書を見ていたときのこと。



「寄り道か? 悪い子だな」



あたしに声をかけてきたのは、五味先生だった。



「寄り道って……参考書見てたんですよ」



「分かってるよ、冗談だ」



そう言いながら、五味先生はあたしの隣に並んで棚に目を向ける。



「五味先生も、もう帰りですか?」



「いいや、俺はもう一つ受け持ちの授業があるんだ。休み時間だから、ちょっと息抜き」



「そうですか」



あたしは、手にしていた参考書を棚に戻した。



「結婚生活は順調ですか?」



「おかげさまで」と言いながら、五味先生はあたしが棚に戻した参考書に目をやっていた。