「そういう美菜は?
この町を出ちゃうの?」
美菜は空を仰いだ。
「……どうかな? わかんない」
するりと出た言葉は曖昧なものだったけれど、自分の意識が変わりつつあると、美菜は実感した。
少し前までなら、『出ていくよ、こんな田舎』と吐き捨てていたろうに。
そして叶がまだやりたいことが見つかっていないことに、少しだけ美菜は安心していた。
やりたいことを、叶と一緒に探すのもいいな、と思った。
一緒じゃなくても、叶がこの町に来てくれたことで、自分にも探せるんじゃないかって気持ちが湧いて。
叶が隣にいるだけで、色あせたいつもの風景が、鮮やかな色彩を放ち。
叶が声を発する度に、静まり返った道が音を奏で始め。
見慣れた世界が、彩りをまとい始めるから。
美菜はこの町を、もう少しだけ叶のように見てみよう、と思った。
高校を卒業するまでの三年間。
せめて、叶がこの町にいる一年の間。


