柔らかい日差しを浴びながら、シーズンにはまだ早い海のへりを歩く。
じっとりとした湿り気をまとう風は、潮の香りがする。
自然の香りにむせそうになりながらも、叶は肺いっぱいに息を吸った。
美菜は遠く異国の地を探すように、海の向こうに視線を向けている。
そこに飽くなき羨望がちらと映り込んで見えた気がして、叶は目が逸らせなかった。
見つめている叶に目を向けることのないまま、美菜が口を開いた。
「私、早く大人になりたいの」
──そしてこの町を出たい。
言葉にはならなかったが、想いは叶に届いていた。
叶は黙って視線だけを美菜に向け、彼女が言葉を続けるのを待った。


