自分には都会が合わないように、叶は感じていた。
せかせか生きることに疲れた、というにはまだ早いだろうけれど、叶はこの町のゆったりと流れる時間が好きなのだ。
たぶんそれは幼い頃から。
従兄弟の住むこの町に滞在したことがあるのは、生涯でたった1ヶ月にも満たないであろうのに、なぜか懐かしくなる。
叶は、昨日到着したときもそうだった事を思い出していた。
地に足をつけ、空気を吸った瞬間、まるで回帰したかのような感覚に包まれたのだった。
あの懐かしさがどこから来るのか、叶本人にもわからない。
ただ長らく住んだ筈の都会が、陽炎のように記憶から霞みゆき、反面この町が自分の心のうちへ馴染んでいくのを、漠然と感じていた。


