「くはぁぁぁぁ~~~~~あ~あ」


 男が居た。
 歳の頃は二十の後半程。或いは三十前半か。
 クソが付く程の退屈と眠気に、大きなアクビをこく。


「暇だぁ~~なぁ」


 悪態を吐き、机に投げ出した長い脚を組直す。
 振動で錆びて塗装のハゲた、ボロイ事務椅子が悲鳴をあげた。
 黒のスーツはくたびれ果て、ネクタイも廃れ、顔の上に被ったハットのような帽子は角がほつれ、埃塗れだ。


「んっと?」


 頭の後ろに置いていた手を降ろして、ポケットを探る。


「ぁん?」


 上着、内ポケット、ズボンと探り、見当たらないのか身体を起こす。
 帽子が机の上に転がった。


「っとこっちか」


 机の上に目的の、煙草の箱を見付けて手に取る。


「…っちゃぁ~」


 箱の中は空だ。
 頭を掻いて灰皿に手を伸ばし、シケた煙草に火を着けた。


「プフゥゥ~~」


 紫煙をくゆらす顔はシケっている。
 ダルさを絵に描いたように、締まりの無い顔だ。


「ああ~あ、どうすっかなぁ」


 また跳ねがヒドい癖毛をガシガシ掻いて、帽子を被る。
 ようやく机から脚を降ろした。