前に座っている男子は普段大人しい感じのタイプで、スポーツよりも勉強が得意分野といった感じのする人間だ。

誰かと仲良く談笑している姿もあまり見かけることもないので、優と同様で人付き合いが下手なのだろう。

そんな彼が無表情に前を見つめ、そんな不埒な事を考えているとわかった優は小さく笑った。口の端を軽く吊り上げ、相手を馬鹿にしたような笑いだった。

（キスするときは、やっぱり歯を磨かなくちゃね。…でも、うまくキス出来るかな）

彼の妄想は続いている。そんな彼を嘲笑しながら眺める優。

その時、教室の扉が開いた。

「おはよう。席に着けよ、おまえら」

担任の正木が教卓に向かいつつ、パンパンと軽く手を叩いて皆にそれを促す。

その正木の後ろに見慣れない男子生徒が、真新しい制服を着てついてきている。

その生徒が教室に入ってきた瞬間、クラス内の女生徒達が息を飲むのがわかった。

その男子生徒は教壇にゆったりとした動作で上がり、正木の横まで行くと正面に向き直った。

斉藤とは少し違う部類の美男子だった。