「涼しー」
 森の中はすごく静かだった。まるで何者も寄せ付けないくらい静かだ。ただ枝の間からわずかに太陽の光が差し込んでいるだけ。
「この森、初めて来たから、こんなに気持ちいい所だなんて知らなかった」
 耳を澄ますと、水の流れる音が聞こえてくる。
 今度はハクに手を引かれて、もっと奥の方まで進んで行くと、大きな、それは大きな桜の木があった。
 ハクはそれを嬉しそうに、とても愛しそうに見上げている。
「そういえば、初めてハクと会った時も桜の木見てたね。ハクは桜が好きなのか?」 ハクは小さく、コクリと頷いた。
「そっか……」
 そう言って、俺とハクは、その桜の木の下に座り込んだ。そのまま特に何をするわけでもなく、俺達は静かにそこから森の中を眺めていた。