「つまり『感情連鎖』とはな…」
 博士は言いました。
 「『前の番号の生物の感情』が『次の番号の生物を定義』する…という理だ」
 

 「………」
 少年は無言で次を促します。 


 「例えば…4777番目の『イルカ』が“感情を失ったら”、4778番目である『キノコ』は“消滅する”という事さ」


 「……定義されなくなるのか…?」
 少年は中学生とは思えない、頭の切れ方を披露しました。いえ、彼が別段に特別な少年というわけでなありません。その知識は、もちろん自身の超能力に気付き勉強したからでしょう。
 「それが…『量子的波動関数』の『無限発散状態』になるって事か?」
 

 少年が言っているのは、いわゆる『不確定性原理』です。
 『不確定性原理』と旨はつまり…

 すべての物体は“そこにいる確率が高い”というだけで、“確固としてそこにいる”わけではない、という事です。
 「月はあそこにある確率が高いだけだ。我々が確認しなければ、あそこにあるとは言えない」アインシュタイン博士が言った言葉です。
 
 
 「“生命の意思”が必要なんだな…!宇宙には」
 少年の声には核心に迫ろうとする静かな凄みが含まれていました。
 「ああ、そうか…!“誰かの意思”が必要なんだ。 ……“振ったサイコロを誰かが確認しなければ、スゴロクは進めない”」

 ――振ったサイコロを誰かが確認しなければ、スゴロクは進まない――!!

 そうです。不確定性原理…つまり確率が支配するこの宇宙はスゴロクのようなものなのです。星が生まれるか否かも確率…。
 “確認する誰かがいないなら宇宙は進まない”のです。


 「ああ、そうだ。そうだとも……しかし! その説明は、どうでもいい」
 どうでもいい、と博士は断固し、少年の両肩を掴みます。
 「大切なのは…!! “人間が感情を失った結果、世界は竜を失った”という事だ」


 「竜は絶滅した…?」


 「だが、お前は、その“リアルな感情”によって、限定的に竜を“飼っている”という事だ。 分かるか、南竜一くん。 いや―――」

  …と、その刹那、雷が一閃。
 事実として、それは竜の形にも見えました。 

 「―――いや……『ドラグーン・オブ・ザ・ライトニング』よ…」