まだ、生活がまともだった頃、この男(父親)の母親、つまり祖母が買い与えてくれた茶碗。
それはユイの唯一つの私物…。
乳幼児用のその茶碗は、5歳になったユイには小さ過ぎましたが、どちらにしても与えられる御飯の量からいって、茶碗の大きさは関係ありませんでした。
いえ、しかし。傍から見ればそれは惨たらしい光景ではありますが、少女にとってはその乳幼児用の茶碗が唯一の宝物であり、唯一の支えであったのです。
二月に一度ほど、そのときは訪れるました。
仕事をしない父親がごく稀に家を留守にするとき、“彼”の活躍をブランウン管で見る事こそが、彼女の世界との唯一の繋がりだったのでした。
『アンパンマン』。
その“世界の約束”が、少女の倫理。
サンタクロースを疑うのが五歳児だとして、けれど、心のどこかで信じれる力を持つのも五歳児です。
少女は、むしろ他の一切の正義観(価値観)を持てなかったので、誰よりも強く“その世界の約束”を信じていました。
優しき者の正義が照らす世界を、信じていました。
……その茶碗が、今、目の前に鮮紅を背景にして転がっていました。
それはユイの唯一つの私物…。
乳幼児用のその茶碗は、5歳になったユイには小さ過ぎましたが、どちらにしても与えられる御飯の量からいって、茶碗の大きさは関係ありませんでした。
いえ、しかし。傍から見ればそれは惨たらしい光景ではありますが、少女にとってはその乳幼児用の茶碗が唯一の宝物であり、唯一の支えであったのです。
二月に一度ほど、そのときは訪れるました。
仕事をしない父親がごく稀に家を留守にするとき、“彼”の活躍をブランウン管で見る事こそが、彼女の世界との唯一の繋がりだったのでした。
『アンパンマン』。
その“世界の約束”が、少女の倫理。
サンタクロースを疑うのが五歳児だとして、けれど、心のどこかで信じれる力を持つのも五歳児です。
少女は、むしろ他の一切の正義観(価値観)を持てなかったので、誰よりも強く“その世界の約束”を信じていました。
優しき者の正義が照らす世界を、信じていました。
……その茶碗が、今、目の前に鮮紅を背景にして転がっていました。


