美少女戦士 イグニス・ドラグーン・ユイ!

 “そのとき”、誰もが言葉を失っていました。
 
 ――沈黙。

 次の瞬間には「終わった」と吐き出してしまいそうな唇を、LもQも、課長も裕も、誰もが強く結んでいることに精一杯だったのです。

 竜一少年も含め、この事件に関わった全ての人間がいま耳にしているのは、ただ人々の雑踏でした。遠くから聞えるそれはまるで、凍てついた海原に響く“海鳴り”でした。

 360°の海原…。
 シロクマである我々がいくら泳いでも、一片の氷山も迎え入れてはくれません。
 泳げども泳げども、陸地は見えず、刻々と体温は奪われ……。全身の神経はもはや何の信号は送って来ず……。
 そしてそう、我々の耳には、ただ“海鳴り”だけが聞えるのです。
 

 そんな“海鳴り”。

 何も知らない人々の雑踏は、こうした瞬間、かくも愚かしく鋭利な悲劇演出になれるというワケです。

 しかし、ここに集いし『渋谷メルト・ダウン』を信じた若者達は、一体なにを望んだというのでしょうか。
 毎日の安全と自由を保証され、何が不満だというのでしょうか。
 触れ合える肌以外に何を望むというのでしょうか……。


 現代人を蝕む最大の病が『無思慮』だと、竜一少年は言いました。
 たとえマイナスの感情でも、そこに絶対値として感情が存在するだけ、ゼロよりましなのでしょう。マイナスは、マイナスを掛け算してやればプラスになりえますが、ゼロはどうやってもゼロなのですから……。
  
 
 …………と、このように、筆者の私ですら虚無に喰われそうな状況にあって、“少女は立ち上がったのでした”。


 そう、ユイは立ち上がったのです…!!