「どういうつもり?」
廊下に出た竜一を美奈子は掴まえました。
「心でも入れ替えたのかしら?」
「アナタ…名前は?」
竜一は磨き上げられた砲丸のような瞳を美奈子に集中させます。その実直な混ざり気の無い視線に美奈子は狼狽してしまいます。それでも美奈子がどうにか取り繕って名前言い放つと――
「ふかつ みなこ」
と、彼はこれもまた一切の感情を込めずにその音だけを確かめるのでした。人間の一人々々に名前があるという事を始めて知った、モグラのように反芻したのです。
「…どうして名前なんか」
美奈子は直感しました。これは彼の救難信号なのではないか、と。
「…アナタは『みなみ りゅういち』くん」
竜一はただ、「はい」とだけ言って、いつまでも美奈子の顔を見つめていました。長い二人を沈黙が包みます。しかし、それは何の交流を持たなかった、というのではありません。長く見つめ合う事は、あるときは、言葉より重い何かを伝えるのです。
廊下に出た竜一を美奈子は掴まえました。
「心でも入れ替えたのかしら?」
「アナタ…名前は?」
竜一は磨き上げられた砲丸のような瞳を美奈子に集中させます。その実直な混ざり気の無い視線に美奈子は狼狽してしまいます。それでも美奈子がどうにか取り繕って名前言い放つと――
「ふかつ みなこ」
と、彼はこれもまた一切の感情を込めずにその音だけを確かめるのでした。人間の一人々々に名前があるという事を始めて知った、モグラのように反芻したのです。
「…どうして名前なんか」
美奈子は直感しました。これは彼の救難信号なのではないか、と。
「…アナタは『みなみ りゅういち』くん」
竜一はただ、「はい」とだけ言って、いつまでも美奈子の顔を見つめていました。長い二人を沈黙が包みます。しかし、それは何の交流を持たなかった、というのではありません。長く見つめ合う事は、あるときは、言葉より重い何かを伝えるのです。


