美少女戦士 イグニス・ドラグーン・ユイ!

 (そうだ。私はあのとき…ただ淡い恋慕に闘わされていたのね)
 (いえ…執着か……)
 美奈子は長い溜め息を吐きました。


 彼女の中で、青春の走馬灯が行き交うのに合わせるように、店中の数多の影が揺れました。彼女の中の感情が店中の影を操っているのです。

 「懐かしい……」
 と、美奈子は呟きました。
 グラスの影は、裕が連れていってくれたあの夏の海を、
 スプーンの影は、あの冬にゲレンデに書いたハート・マークを形作っていました。


 何と言われようとみんな、掛け替えのない青春の記憶でした。


 【…しかし】
 と、冥王の耳輪が彼女を代弁します。
 【それらは皆去ってしまった】

 (そうね…)
 美奈子は苦笑しました。
 とても晴々しい苦笑です。
 (もう…大人にならなきゃね)


 …………
 ……

 「美奈子?」
 裕は長い沈黙から彼女を引き上げました。


 「え? ええ、やります」
 彼女の焦点が合わさります。
 そして、もうズレる事はないのでしょう。
 「……やるわ、私」