「さっき言ったろ…」
 博士は何かを諦めたような、脱力の声で言いました。
 「“感情は力”なんだ」


 博士は力なく壁に寄り掛かると、後頭部で壁を何度も叩きました。安い建材でできたその雑居ビルでは、その音はよく響きます。

 ドン、ドン、ドン。
 
 「例えば…そうだな…。中学生でもよくあるさ…」
 博士は床に座り込みました。
 「好きな娘に告白しようと思い、手紙をしたためたとしよう」


 「…そんなこと僕はしないし、それに何の関係がある…?」


 「でも、彼女にはもう既に彼氏がいた」
 博士は少年の言葉を無視して続けます。
 「手紙は読まれずに捨てられた。紙は燃やされるだろう。紙は二酸化炭素と燃焼エネルギーに置き換えられて、空気中に開放されるだろう」


 「だが……そのとき、君の“気持ちは何処へ行く”?」

 『気持ちは何処へ行く?』

 ――!!
 
 『そのきもちちはどこへ…?』

 『ソノキモチハ……