「ありがとう」
「どういたしまして」
小菅に続いて、プシュッとプルタブを引き上げた麻紀の口の中には、たちまちコーヒーの苦味が広がった。
今春、グループ会社から出向してきた小菅は、ジャニーズばりの容姿に明るい性格から上司、とりわけ女性社員からの受けがよかった。
いや、「女性」に値するすべての人から受けがよかった。
清掃のおばさんから社員食堂のおばさんにまで顔を覚えられ、大人気だ。
こういうのを『年上キラー』と言うのだろうか。
この就職難の時代に人気企業に採用された上、わずか二年で営業本部に出向になったのだから、よっぽど優秀なのか、強力な縁故(こね)があったに違いない。