水無月に入り、毎日のように雨が降り続いていた。



桜の花は散り、その木には青々とした葉が付き始める。



隆雅は、自宅の廂の間の柱に寄りかかりながら振り続ける雨を眺めていた。



桜が咲いていた頃から朧と何度か会っていたが、朧の素性はまだ何も分かっていなかった。



お互い深い話をせずただ隆雅が奏でる笛の音を朧が聴く…。



それだけだったが、隆雅にとって心休まる一時だった。



最近物の怪による被害が増大していて、内裏内ではそれが騒ぎとなっていた。



このままだと、被害もますます増え最悪の場合、帝も狙われるのではないかと皆不安に掻き立てられていたのだった。



そのため陰陽師が出てくるわけなのだが、その陰陽師もお手上げ状態。



隆雅も陰陽師の晴夜から頼まれていたこともあったが、それも何も収穫のないままだった。



ただ分かっているのは、その物の怪の正体が九尾の狐だということだけだった。



「兄上ここにいたのですか」



足音が聞こえたかと思っていたら、弟の義隆がすぐ側にいた。



「兄上にお客様ですよ」


「ん?」


「えーっと…安倍殿だったはずです」



―――晴夜か…。



「分かった。すぐ行く」