先輩が来る…

快斗先輩が…

ちょっと茜、そんなこと聞いてないよ。


心の中の言葉が顔にも表れていたのか竹さんが心配そうにわたしの顔を覗いてきた。





「大丈夫?」と声をかけられているのは分かるんだけど、それに何か答えないといけないのも分かってるんだけど、快斗先輩がくるっていう事実が受け止めがたくて頭が上手く働かない。



やっと言葉に出せたのが「大丈夫です」と「少しトイレに行って来ます」だった。


別にトイレに行きたいわけじゃない。

だけど言ってしまったものはしょうがないし、ここで訂正するのもおかしいと思って席たってトイレに向かった。



そして、この角を曲がったらトイレというところで、何度も何度も思い出しては頭から何度も何度も消そうとした馴染みの少し低音ボイスが聞こえてきた。

まだ店の入り口辺りなのか聞こえるか聞こえないかの際どい小さな声。


だけどそれを聞き逃すわけがない。だって頭から消そうとしても消えなかった求めてやまないあの人の声だったから。