<side:ハル>
さくらに冷たくあしらわれてから毎日のようにその公園にいた。
なんでか無性に何でもいいからさくらと過ごした場所が恋しくなったから。
こんな良い思い出なんか残ってない場所なんて選んでも仕方ないけど、前の俺の部屋はもう誰かが使ってるし。
思えば俺の部屋以外のさくらとの思い出の場所なんてない。
だから、いくらここでさくらに冷たくあしらわれた記憶でもそれしか俺には残されてない。
はぁ~と、空に息を吐き出すと白い息が綿雲のように顔の真上を踊る。
身も心も冷えきりそうだ。
ふと、公園の出入口付近からじゃりっという砂を踏みつけた音が小さく耳に届き、その音の方に身体を向けた。
見える人影にどきっと胸が高鳴る。
少しだけ外灯で照らされてぼんやりと人影が見える。
直感で気づく。
さくら、だと。
思わずさくらの名前を呼ぶ。
近寄る足も早くなる。
さくら、さくら、さくら。
ストーカーのように追い回したせいで少しだけストーカーの気持ちが分かった。
いや、端からみれば列記としたストーカー、かもしれないけどそこは自分で認めたくはない。
「ハル」
と久しぶりに呼ばれる声に胸が弾み、
走り寄ってきて俺の胸に抱きついてきた行動に奇跡だと脳内が真っ白になる。
どんな気持ちでこんなことをするのかよく分かんないけど、今だけのことならばこの時間を大切にしたい。
この瞬間、時間が止まってしまえばいい。
この世界にさくらと俺の2人だけになればいい。
そんな感情だけが渦巻く。
後で考えればこんなにキモい考えなんてないなとは思う。
でもそんな都合のいいことが続くわけがない。
俺の部屋に泊まることになって、もしかしたらこのまま…なんて甘い考えを思ってた。
さくらが俺のベッドで寝る姿も2年ぶりでそれだけでも泣きそうなくらい嬉しい。
寝顔だけでも心が温かくなった。
でも、朝目が覚めて…
置き手紙を置いてさくらは消えた。
初めてみるさくらの手料理。
だから料理も初めて食べる。
胸が嬉しさと悲しさと虚しさでいっぱいいっぱいだ。
その料理に一口手をつける。
噛み締める度に涙で視界がぼやける。