<side:茜>

「好きなんだ」

そう告白してきたのは部活のOBの先輩だった。

大手の病院で優秀な外科医として働く彼は将来有望だった。

如月優斗。

だけどわたしは彼に興味なんてない。

告白を大声でしちゃうような彼を好きになることなんてない。

ここが人のあふれるようなとこだったら間違いなく平手をかましてバイバイしているところだ。

だけど、「ごめんなさい」って言わないのには理由がある。

この人ならみんなに彼氏がいることを言ってもいい。

そう…

わたしは秘密の恋をしていた。

誰にも言えず、親友にも黙って、人知れずこっそりと密会を続ける人が。

不倫とかそんなんじゃない。

そんなんじゃないけど、彼にとってわたしはその他大勢の女ってこと。

だけど近くにいたら、いつかわたしのこと好きになってもらえるんじゃないかって、彼に近づけるんじゃないかってそんな幻想を抱いてる。

この人と付き合えば、彼のこともカモフラージュできるんじゃ…

そんな気持ちでわたしは…

「わかりました。付き合いましょう」

そんな冷たい返事をした。

だけど彼はへこたれない。

なんでへこたれないのかわかんない。

いつもいつも笑って、いつもいつも元気で、いつもいつもわたしばっかり。

そんな彼に救われてたのは確か。

だけど、わたしの心にはあの人が住み着いてるの。

だけど、あの人はわたしなんか眼中になくてわたしの話を通して親友に恋していた。

可愛くて可愛くて守りたくなるようなさくら。

彼はさくらに恋してる。

「今日、さくらちゃんはどうしてた?」

部活後にあの人の部屋へ行くと抱かれながらさくらのことを聞いてくる。

わたしに集中してよ。

この時だけでも。

そう思って彼の首にしがみついて引き寄せキスをした。