「宮下さん?」

あの頃のたっくんは、まだ私のことを名字で呼んでいた、気がする。

今と変わらない、低く美しい声で。



「宮下さんもこの本読んだんだね」

そう言って彼が差し出したのは、1週間ほど前に借りた一冊の本。

あの頃私たちの学校の図書館は、バーコードなんていうハイテクな物はなく、カードに名前を記入するタイプだった。


「宮下さんの名前を見つけてさ、なんだか嬉しくなったんだ」

そう言って笑ったたっくん。

屈託なく笑うその手にあった本のタイトルは、





―時の止まった僕ら―





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