ある夜だった…


夜空には不気味なほど輝く満月があるだけの街。

フランス、パリ

整備された道路が高々とそびえる一つの塔を中心にならび、その塔だけがその存在を表している。

エッフェル塔である。

ひと気などあるわけがない。


どこか物悲しく風が吹いていた。




そびえたつ塔の上に、その少女はいた。


背は高めだ。


腰まではありそうな長い黒髪を、高い位置で結わえている。

無造作に背中に垂らされた髪は、艶めきながら風になびいていた。


顔を見れば黒い大きな瞳が目につく。

意志の強そうな、
それでいてどこか切ないようなその瞳は、遠くの闇を見据えていた。

鼻も低くない、
悪くない顔立ちだ。

世間では『美人』と称されるくらいのものである。