「…詩依良。」

前の席で凪百合と話していた都流羽に呼ばれ、窓から視線を外した。

「あら、なに?」


都流羽はゆっくりと私に振り返った。


「…詩依良は、この世界が。
…ここが嫌いですか?」


都流羽らしくない、質問だった。



「…都流羽…?」


どうしたの?
なんで、そんなこと、聞くの?


「…な「詩依良が…」


私の言葉を遮ったのは、凪百合だった。

「…詩依良が。
しぃちゃんが、切なそうに窓の方を見ている時はそうゆうこと、考えてるでしょう?」


寂しそうに言った凪百合はふぅっとため息をついた。

「私たちが気づいてないと思ってた?」

もう一度私の目をみた、凪百合は優しく笑っていた。

「そうですよ、詩依良。
何年一緒にいると思っているのです?」


都流羽もほんの少し笑って言ってきた。



何年…か。

ため息を小さくついて、窓の方を向いた。


「…そうね…。嫌い…よ。嫌い。
…そして、自分も嫌いなの。
ここが…都流羽や凪百合がいる、この世界が。
嫌いと思っている自分もね。」


あの人が…お父様だけが嫌いなんじゃないの。


自分が、


自分の中が嫌いなの。


「1人では何も出来ない、自分が嫌いなの。」


分かっているの。



お父様だけに怒りがあるわけじゃないってこと。



自分に一番怒りを感じていることも。



「…分かっているのよ…。
仕方がないってことも。
でも、私は…。」


……私は三橋乃詩依良よ。
……でもそれ以前に。


「…私は私だから。」


詩依良である前に、

「1人の人間だから。」


お父様の…

「…人形には絶対になりたくはないのよ…。」


…旭に言われた、意地を張ってるって。本当だな……。