ぱた、と音がする。

静寂の世界の中。
そんなことはありえない。

漆黒の案内人は表情は変えず、視線だけ動かす。

行き当たったのは。
隠された顔の下に落ちる水滴だった。


「絶対、に…時間は守るから…あと、少しだけ…」


「駄目だ」


弱々しい願いは、鋭く一蹴される。


「理は変わらない。それがあるのはそれだけの理由があるからだ。おまえの身勝手で変える訳には行かない」


「……っ」


知っていた。
解かっていた。

だからこそ、何も言えなかった。


「明日の夕刻まで、あと一日と十時間十七分。大人しくしているんだな」


「…ぃ…」


義務的に淡々と紡がれる言葉。
その後に聞こえた小さな声。

涙で歪んだ望月の顔が、黒い瞳に向かった。


「せめて、お別れを…伝える時間を、ください…それで、最後に…します、から」


嗚咽交じりの声。
それに眉一つ動かさない黒。

暫くの沈黙。


「…いいだろう。ただし、傍で私が監視する。それが条件だ」


そう言うと、背中を向ける。
その瞬間、空間が歪んだ。

一点に影が集中したかと思うと、一瞬で視界が明るくなる。

居間の時計の鐘が鳴る。
音が、戻った。

自由になった後も、望月は動くことが出来ずに泣いた。