胸を打つような圧迫感。

ひゅっと咽喉が鳴る。
その瞬間に望月は畳の床に崩れ落ちた。


「邪魔をする」


静かな声。
低くも高くもない。

動かない躰、視線だけ声に向ける。


「逃げられては困るからな。少々動きを奪わせてもらった」


影から抜け出したような。
全身が黒尽くめの人が、そこにあった。

声が響く度に、全身の力が抜けて行く感覚。
生まれたのは恐怖以外の何でもなかった。

望月は思わず肩を震わせる。


「な…んの、用…ですか…?」


漸く紡いだ言葉。
それは酷く歪だった。

黒い瞳は、望月を無言で見下ろしたまま。


「…おまえに訊きたい」


抑揚のない声は、温度を感じない。

昼に聞こえる生活音も。
外の音も、何も聞こえない。


「おまえは、自分の立場を解かっているのか?」


びくりと。
望月は躰を強張らせた。

その反応に、漆黒の瞳は続きを紡ぐのを止めた。


「なら、これ以上は現世(うつせ)に関わるようなことは止めろ」


望月は顔を下げる。


「貴方、は…死神…なんですか?」


俯いたときに流れた髪。
それに覆われ、窺い知れない表情。


「私は死神とは違う。おまえ達を案内する道標。ただそれだけの存在だ」


弱々しく訊ねられた問いに、漆黒の人は端的に答えた。