桜井君の前では泣かないようにしていたけど、家を出てきてからは涙を止めることが出来なかった。


「ごめん。桜井君のお母さん、知ってたから。なんか、無性に悲しくなって」


試合があるたびに、桜井君のお母さんは会場に駆けつけていた。


マネージャーの仕事をしているときに、声をかけられたこともあった。


ご苦労さまって、優しい声で。


「桜井君のお母さん、きっと天国でホッとしてるよね。もう一度桜井君が、サッカーに向き合うって決めて」


「ああ」


修斗の指が、私の涙を拭う。


「練習して帰る。付き合ってくれるか?」


「うん」


桜井君が前を向いてくれてよかった。


「これで、部員全員揃ったね」


「ああ。残り少ないからな、部活でサッカー出来る時間」


部員全員揃って、やっと選手権優勝って目標を掲げられた気がする。


選手権県予選まで、あと少し。