【短編】お願い、ヴァンパイア様

 その日の放課後。

ホームルームでなぜか任命され、今日がこの学校最後の神崎さんに花束を渡した。


「ありがとう」

 複雑な拍手の中、はにかんだ彼女はなぜか懐かしい気がする。


 神崎さんとなにかあったっけ?

彼女がやってきてから、この一月に言葉を交わしたのは数回のはず。


頭をひねるけど、そのたびになぜか気だるい頭痛がした。


 その体調不良は初めてのはずなのに、心の奥では「まただ……」と嘆いていた。


「……神崎さん…」

「媚薬」

 何を言っていいかわからなくて、彼女の名を口にした瞬間だった。

小さな呟きが、わたしの耳に届く。

「え?」

「…あなたには、もう必要ないはずよ?」

 神崎さんが何を言っているかわからなくて、「はあ……」とやっぱり曖昧にしか返事が出来なかった。

もう一度ペコリとお辞儀をした彼女の後姿をわたしはただ、じっと追いかけていた。



 バイトだという百合と愛美は早々に下校して、一人で帰り道を歩く。

相変わらず女の子のはしゃぐ声と共に、遠くで翔くんの声がした。


 つい先日、わたしに声をかけてきたくせに…

と思いつつも、彼が彼なりの幸せがあるのならばいいか、と納得していた。


 いつもの帰路に不定期に行われるフリマ。

所狭しと洋服やアクセサリーを中心に並んでいる。


 こういうのは嫌いではなく、お財布も寂しいことだし、人の間からチラチラとのぞきこんでいた。