【短編】お願い、ヴァンパイア様

 話題になったのは、この学校一といってもいいくらいのプレイボーイ・翔くん。

カッコよくて頭もよくて……女の子には、誰にでもやさしい男の子。


 付き合えたら、隣にいるだけで自慢になってしまうような彼氏になると思う。

実際に、わたしはそう思っていた。


 ……―なのに。


「どうして?椎名ちゃん、あんなに好きっていってたのに…?」


 わたしには、ぽっかりとそんなキモチはなくなってしまっていた。

小首をかしげた愛美は相変わらずかわいいのだけど、自分ですら分からないことを答えられなかった。



 強いて言うならば―……。


 なんとなく、哀しい瞳をした誰かを思い出す。


 『好き』とか『恋』とか、どこかに置いてきてしまったみたいに、今のわたしの心には住み着かなかった。


さっきも神崎さんにいわれた。



「大切な気持ちまで、忘れないで?」


 忘れているのかもわからないのだ。



 永い夢をみてて、まだ寝ぼけているような感覚の毎日。

流れていく時間が嫌なわけではないけれど、なにか物足りない。


 こんな自分から脱却するためにも恋でもしたいな、なんて考えてはみるものの…。

気持ちが追い付かない。


そんな堂々巡りの自分に、呆れながらお腹の底から大きく息を吐いた。



「………わたし、なにしてんだろ」