「一か月だけでしたが、お世話になりました」


 不思議な雰囲気を漂わせる少女は、先日転校してきたばかりなのに、またいなくなるらしい。

色素の薄い長髪をお辞儀と共に揺らしていた。


 少ない彼女の挨拶に、あまり接点もなかったわたしはただ拍手をするだけだった。



 いつの間にか梅雨は明けていて、春から一体何をしていたか思い出せない。

半そでに衣替えをして、早速わたしの首筋には2箇所食われていた。


 よっぽど、おいしそうだったのだろうか?

特にかゆみも感じないので、わたしは放っておく事にした。


 たった一月のクラスメートの後姿は、いつも凛としている。

何をしたいのかもわからないわたしとは大違いだ。


 そういえば、今日から駅前でフリマが行われているはずだ。

今朝、登校するときにもらったチラシをポケットから取り出す。


「気晴らしに行ってみようかな」

 寄り道をしたからといって彼女みたくなれるわけではないけれど……そして、彼女がどんな子なのかもしらないのだけど、すこし憧れる。


 気づいたら朝のホームルームは終わっており、わたしの隣には今日でお別れしてしまう神崎さんがいた。


「椎名さん」

「……は、はい?」


 神崎さんは人を下の名前で呼ぶ。

何故かはわからないけど、もしかしたら彼女なりのコミュニケーションのとり方なのかもしれない。


 突然声をかけられたほうは、かなり驚いてしまうんだけど。