【短編】お願い、ヴァンパイア様

 細い指で、レンの輪郭をなぞるように撫でる。

慈しむその優しい微笑みは、やはり彼を愛したミーナ。


「…俺を、封印したくせに!」

「ちがうよ、レン!…彼女は、もう生きてはいられない体だったのよ!」


 何故か神崎さんの格好なんだけど、ミーナにさえ否定するレンの姿に黙っていられなかった。

そしてわたしの言葉に、レンはバッと振り返ってきた。


 レンは知らなかったんだ。


「……ヴァンパイアなんて、いなけりゃよかった」


 己の存在を嘆く。

その姿はいたたまれないほど、苦しい。


 きっとミーナさんも、だからこそ生きる意味を見出してほしかったに違いない。



「そんなこといわないで……っ?
わたしは、レンに出会えてよかった。ミーナさんだって、きっとそう…」


 そうして悩むレンだから…すぐ泣いてしまうわたしたちをみて、困ってしまうのね。


「俺は…。俺は……っ!!」


 星なんかに負けないほど、その涙は輝いていた。

髪を振り乱してミーナさんにすがるレンの背中を、わたしは夢中で抱きしめた。



「たくさん泣いていいよ?わたしが、レンを笑顔にしてみせるから」


 声にならない声で、レンは泣いた。

届かなかった『想い』は、今繋がったのだから―……。