【短編】お願い、ヴァンパイア様

 紅い瞳には、もう誰かが宿っていたの?

金縛りにあったみたいに、わたしはただ見つめるしか出来なかった。


 嬉しそうな、哀しそうな……。

とても複雑な表情で、わたしなんかよりもレンの方が泣き出しそうにすら見えるほど。


 さっきまで南茂のように揺れていた胸の奥が、ジクリジクリと濁るように震えだす。

その気持ちがどうしてか、わたしにはわからないでいた。


 レンの口が、再びゆっくり開く。


「…でも、俺を捨てた人間」


 長い睫を伏せ、もう一度海を見つめてる横顔。

わたしの頬には熱い筋がいくつも出来てしまって、きちんとレンを捕らえることが出来ない。


 つん、と突き刺さるような痛み。

真紅の瞳が映すわたしは、何色に映るんだろう?


「……レン…」


 レンを呼び出した時。
「泣くな」と哀しそうに笑ったのはそのせい?

 いつだってそう。
無関心の振りして、本当は寂しかったの?


 聞きたいことがたくさんあるのに、喉を通過してくれない。



 わたしの様子に気づいたレンは、また困っていた。



「…また泣いてる」


 折角、バレないように声を押し殺していたのに…。

くすんと鼻が鳴り、すこし荒い息を繰り返してた。