「昔からあたしってば後先考えずに、これだって思ったら突っ走ってた。喧嘩だって、男の子としょっちゅう繰り広げてたの」


 脳内で再生される、昔の出来事。

波の音が、思い出と共に心地好く身体を吹き抜けていく。


「だから……たくさん怒られて、たくさん泣いて。そうしたらいつの間にか、勇気もしょんぼり縮んでいって、自信の欠片もみあたらなくなってた」


 理性を知るごとに、わたしはわたしでなくなるみたいだった。


 自分のやりたいことも、自分の好きなことも。

周りにあわせているのではないかと、何度も自分を疑って。


「そんなときに、今の好きな人に出会った。見ず知らずの人に『ショートヘアが似合う』って誉められて」


 ずっと遠くを見つめるレンは、目もあわせず黙ったまま。

だからわたしは、そっとその横顔をみつめて想いを唇に乗せる。


「単純なの。……でも、わたしはきっとキッカケがほしかったんだ」


 今の自分がすきかと聞かれたら、即答は出来ない。

けれど、わたしには家族はもちろん百合や愛美……そして神崎さんもいる。


 その人たちのためにも、うん、っていえるようになりたい。




「……ミーナ」


 押し黙っていたはずのレンの声。

ぱっと見上げると、ゆっくりわたしに視線をずらしてきた。







「…俺の、愛した唯一の人間」