浜辺には下りず、ずっと高台から徐々に変化を見せる空と海のグラデーションを眺めていた。

レンなんて、連れてきたわたしすら見ずに。


 わたしの嫌いな自分の髪は、大きな潮風を受け流すのに十分すぎて頬をくすぐる。

思い出させないように、ぎゅっと押さえつけた。


「……俺は、嫌じゃない」

「え?」


 急にレンが声を発するものだから、波の音で消えかかった言葉を聞き返した。

すると、ふわりと大きな手のひらがわたしの後頭部に滑る。


「お前そっくりじゃん」

 フと緩める表情は、とても優しくて。

それは…トクンと心の奥まで染み渡るよう。


 心地好い刺激は、なんだかこそばゆい。

ぎゅっと拳を握り気持ちを落ち着かせ、隣にいるレンを見上げる。



「レンは……恋をしたことがある?」

 空と海の間を見つめるレンは無反応。


 潮風で聞こえなかったのかな。

でも、もし独り言になったとしていいや。


「…あたしはあるよ。そりゃ今もそうだけど、もっと前にも……」


 隣にいるレンの手をとり、そっとその指にわたしの指も絡めた。

嫌そうな顔を一つでもするのかと思ってた。

けれどレンは何も言わず、不安を汲み取ってくれるかのごとく、ぎゅっと握り返してくれた。