【短編】お願い、ヴァンパイア様

 急かすレンに苛立ちを隠せず、声を荒げてしまった。

「お願いだから、ちょっと待って!まだ、わからないことが多すぎて……」

 そんな自分の声ですら、グラリと世界を歪めるように襲い掛かる頭痛。

支えるように手で額を当てながら、冷静になるためにも大きく息を吐いた。



 もう、なんでこんなことばっかり……!


唇が切れてしまうんじゃないかと思うくらい、歯を食いしばっていた。


なかなか口を開かないわたしに、レンも痺れを切らしたのだろうか。



「…すべてを知ることが、義務じゃない」


 決してそれは強い口調ではなかった。

だけども、わたしを思いやったものでもない。


「……でも、神崎さんはそうじゃないみたいだった」

 息を整えながら、シーツの柄を見つめて吐き捨てる。

わたしの言い方が気に入らないのか、呆れたようにレンは言葉を続けた。


「俺はお前のヴァンパイアで、お前の望みをかなえにきた。……それのどこが?」


 すこしすっきりしてきた頭で、レンの言葉を必死に飲み込もうとしてた。


 確かにレンの言うことは、真実。

けれど、わたしの中で全てを理解できたわけじゃない。


 戸惑っているわたしに、レンは更に追い討ちをかける。


「お前の恋の相手の……心を奪えばいいんだろう?」


 サラリ、と意図も簡単に。


 そう、レンにとっては簡単なのだろう。

しかし何かが違う気がする。