【短編】お願い、ヴァンパイア様

 いつの間にか校舎裏の木の枝に立っていたレン。

それに抱きかかえられているから本当は怖いはずなんだけど、なぜかわたしは「大丈夫」と確信していた。


 木漏れ日を受けて、それはそれは不釣合いな笑顔。


「シーナ……」


 切れ長の紅い瞳はまっすぐわたしと捕らえ、クセのある柔らかな黒い髪はレンの端正な輪郭を遊ぶように揺れてた。


ローブに包まれたわたしを、さらにぎゅっと抱きしめる。


「俺は、ヴァンパイアだ」


 そういうなり、もう一度わたしの首筋に唇を這わせる。


 生温かい息遣いが麻酔のように。

 鋭い牙はクスリのように。


「……んぁ…っ」


 ただ体中を疼く甘い痺れに、声をあげることすらままならない。

キュウッ、と体の芯を取られたみたいな感覚は、すぐ終わった。


 抱えられたままわたしを見下ろしたレン。



「お前の望みをいってみろ……」


 不思議なほど美しく、怖いくらい妖艶。

わたしが呼んだ恋のキューピッドは、ヴァンパイア。



「ただし、代償は……」


 まさかこんなことになるなんて思わなかった。

でも、もう後戻りなんてできない。