「うそでしょぉ~……」

 涙声で嘆いた、そのときだった。



 ガラリ、と突如開いた部屋の窓。

空の様子は変わらないのに、疾風が吹きぬけたわたしの部屋。


「きゃぁっ……!」

 腕で顔をかばい、風が止むのを待った。


 ひんやりと薄手のパジャマをすり抜けて、軽くなった襟足を撫で付けていく。

そんな感覚をしきりにカンジながら、すこし弱まるとようやく腕を解いた。



「お前が、呼んだのか」


 そこには、一人の男宙に浮いていた。

漆黒のローブを羽織り、真紅の切れ長の瞳を一瞥するように携え、その顔立ちは絵画のように美しかった。



「……だ、だれ…?」


 わたしの問いにその男は答えず、窓をくぐって部屋へ進入してきた。


「ちょっと、まって!」

 そいつを追い出そすために立ち上がろうとした。

だけど、足元にあの魔術書があることをすっかり忘れていて、思い切り滑ってしまった。


「いたたた……っ」

 勢いよく尻餅をついたわたしは、その男の方へ転がってしまった魔術書を見やった。

それが幸いしたのか、男の動きをピタリと止めることが出来た。



「……媚薬、か」