【短編】お願い、ヴァンパイア様

 鋭い瞳が、なぜか後ろめたく感じる。

でも、これは所詮、町のフリマで売っていたおまじないの本なのよ?


「…な、なにかしら?」

 強がってみたけど、とても不安。

それがバレてしまってるのではないかと、さらに緊張を掻き立てる。



「……はあ、わかった」


 呆れたように大きなため息をついた神崎さんは、パサリと気だるそうに長い髪を方の後ろへ流す。


「一度しか言わない」

 神崎さんの言葉の意味を理解するのに時間がかかる。

だから、呆然と彼女をみているしかできなかった。



「純銀製の器に薔薇の朝露を垂らしなさい。その朝露には満月を映し、愛の言葉を口にする。そして、その朝露で十字架を濡らし……」


 まるで流れるように、呪文のように口にするから聞きほれるように神崎さんを見つめてた。



 だけど、最後の一句はとても印象的で、わたしは生涯わすれないだろう。







「……血を、捧げなさい」



 小さな欲望は、わたしを幸せにしてくれるのだろうか。