【短編】お願い、ヴァンパイア様

「百合、愛美……『銀の杯』ってなにかな?」


 あの暗号のような三行の文章。

突然、わけのわからないことをいったのは自覚しているけど、驚きのあまり固まってしまっていた。


「えっと、ちょっとミステリー小説を読んだんだけどさ、ヘンな暗号文があって……」

 あはは、とイイワケがましく言ってみたら、百合が心底驚いていた。


「椎名がミステリー小説!?天地がひっくり返るの!?」

 などと喚いていたから小突いてやった。

呆れたように愛美は、うーんと小首をかしげる。


「前後の文章はわからないの?」

 まさか訪ねられるとは思っていなくて、かといってわたしは魔術書を広げる勇気もなかった。

「えっと、確か……」


 さっきは使わなかった数学のノートを広げ、あの文章を書き出す。


「『銀の杯に薔薇の涙』……?」

 最初の一行に三人ともお手上げだった。


「だぁあーっ、まだるっこしい!」

 名前負けな百合が短気をみせたとき、ひょい、と机においてたメモを誰かにとられた。


「ちょっと……」

 こんなこと書いていたなんてクラスメートに知られたら、わけのわからない子だと思われる。

きっと睨みあげると、そこには神崎さんがじっとメモを見詰めていた。



「……やっぱり、あなた…」


 チラリと冷たい視線が突き刺さる。